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卒園

そして気が付くと、子リスはもう卒園を迎えていました。卒園間近になって、子リスはますます先生達に懐き、毎日にこにこと幼稚園で過ごしていました。そして時々私に、「ママ、ボクがもし卒園式でおへんじしたらどうする?」と聞いて来たりします。「もし子リスがお返事したらママびっくりしちゃうなあ。」と答えると、「卒園式だもん。おへんじするよぉ。」と言うのです。本人が言うのだから、もしかしたらするかもしれない、と思いましたが、プレッシャーになってはいけないので、それ以上はお返事についての話はしませんでした。

そしてついに卒園の日です。教会の礼拝堂に並んだ子ども達はみんな、いつもとは違って、少し大人びた顔に見えました。担任の先生が一人一人名前を呼び、呼ばれた子は「ハイ」と返事をして園長先生の前に歩いて行き、卒園証書をもらって席に戻ります。
子リスの番が来ました。

F先生: 「子リスさん。」
子リス: (・・・)
私が座っていた所からは子リスの様子は見えませんでしたが、子リスが声を出そうとしている雰囲気が、なぜか伝わって来ました。でもとうとう声は、出ませんでした。
声が出なかった子リスは、動くことも出来なくなってしまいました。多分子リスは、「ハイ」と声を出し、そして歩いて行くことを考えていたのに、その声が出せなかったので一気に緊張して(もしかしたら少しパニック状態になって)体が固まってしまったのだと思います。しーん、とした時間がとても長く感じられました。他のお母さん達も、心配そうに子リスの様子を見てくれています。
壇の上から、園長先生とF先生に優しく手招きされて、子リスは何とか、歩き出しました。そして園長先生から卒園証書をいただいて、戻って来ます。
「出来なかった…」という顔でした。でも、F先生は、子リスが一生懸命声を出して返事をしようとしていた所を見ていて下さいました。そして体が固まってしまったけれど何とか前へ出て来た様子も。F先生はその後しばらく、涙声でした。

2年間、F先生と幼稚園が子リスに与えてくれたものに対して、私達は今でもとても感謝しています。それから、クラスの子ども達やお母さん達がいつも暖かく接してくれたことも、いつも心にあります。
子リスが答えられない時に、代わりに答えてくれたお友達。子リスが首の返事だけで答えられるように、質問の仕方を工夫してくれたお友達。くすぐったら声を出した!と喜んでくれたお友達。「子リスくんのお母さん!今ね、子リスくんがしゃべったよ!『あっ』って!」と私に報告してくれたお友達。毎日園庭でお喋りしながら、一緒に子ども達を見守ったお母さん達。そして、子リスをさりげなく自然に受け入れながら、いろいろなことを乗り越えさせて下さった先生方。一貫して「特別扱いはせず、でも無理強いはせず」という向き合い方をして下さったことで、子リスは、自分が受け入れられているという安心感と、しっかり導かれているという信頼感を持つことが出来たと思います。そして、2年を通して何より心に残ったのは、子リスに限らず子ども達一人一人に対する、先生のひた向きさでした。それはきっと子ども達みんなの心に響いていると思います。子リスが幼稚園時代に喋ることはありませんでしたが、喋ることは成長のほんの一部と受け止めたいと思います。それよりも、幼稚園で皆にそのまま受け入れてもらって過ごした経験そのものが、時間が経てば経つ程、子リスにとって大切な財産になって行くのではないかと思っています。