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それぞれの夜

ところで、おっぱいのリズムが狂ってとまどったのは、子リスだけではありませんでした。それまでと変わらないペースで母乳を生産し続けるおっぱいも、突然“お客さん”が来なくなって面食らった様でした。手術をした次の日の夜には、おっぱいはもう、はちきれそうになっていました。でも私はまだ、術後の痛みで腕を動かすことも出来ず、呼吸も苦しい状態だったので、とても搾乳など出来ません。
すると担当の看護婦さんが、「私がお手伝いしてもいいでしょうか?やり方を教えていただければ、私がやります。」と言って下さったのです。それで、たらいの中にバスタオルを敷いて持って来てもらい、絞り方を説明して搾乳をしてもらいました。(このやり方もラ・レーチェ・リーグの集いで教わったものです。)まだ若い看護婦さんで、勿論授乳経験もなかったのですが、私が絞り方を伝えると、一生懸命その通りにして下さって、そのお陰でおっぱいの苦しさが取れました。そして彼女は私に、「勉強になりました。ありがとうございました」と言うのです。本当に、よくそこまでして下さったと、あの看護婦さんには今も心から感謝しています。

ただ、手術後の胸の痛みそのものは、私がそれまでに経験した痛みの中では最も強いものでした。何度か痛み止めの注射を打ってもらいながら、少し眠っては痛みと苦しさで目が覚める、ということが二晩続きました。

一方、夫と子リスは…。手術の日は、一日中バタバタしてさすがに疲れたらしく、夜にホテルに戻ってお風呂に入ると、子リスはコトンと寝たのだそうです。これで、「おっ、案外大丈夫かも…」と夫も、話を聞いた私も思ったのですが、二晩目はそうは行きませんでした。お風呂に入り、ベッドに寝かされた子リスは、急に「ママとこいく。」と言い出したのだそうです。夫が、「ママはまだイタイイタイだからね。子リスはパパとここで寝ようね。」となだめましたが、子リスは聞きません。「ママとこいくぅ~」と駄々をこね始めました。仕方なく夫は子リスを抱いて外へ出ました。でも本当にママのところに行くわけには行きません。時間を稼いでその間に寝かせようという作戦です。まず「ママにお土産買って行こうな。」と、24時間空いているスーパーに寄ってヨーグルトを買います。そして「ママとこいくぅ~!」と泣く子リスを、「よしよし、行こうな」とあやしながら、普通に歩けば10分で着く病院までの道を、ゆっくり、ゆっくり、歩きます。泣き疲れて子リスは段々眠くなって来ます。よし、寝る…、と夫が思ったその時、後ろからサイレンを鳴らした救急車が来て、子リスはまた「ママとこ~」と起きてしまう…というのが3回ほどあり、結局、子リスが眠ったのは、ホテルを出てから1時間半後だったそうです。子リスはその当時10.2キロ。それを抱いて歩き続けた夫は、ホテルに戻って子リスをそっとベッドに置くと、自分もその隣に倒れこみました。