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公園で…

退院して数週間が経ち、私の体調もだいぶ元に戻って来ました。ある日の夕方、私と子リスは車で、開店したばかりのドラッグ・ストアに買い物に出掛けました。買い物が済んでお店を出た時、目の前に小さな公園があるのを見つけました。
「こんな所に公園があったんだねえ。」
普段あまり行かない場所なので、知らなかったのです。子リスはすぐに砂場めがけて駆け出して行きました。誰かが忘れていったらしい小さなシャベルがありました。公園には他に誰もいません。子リスはそのシャベルで砂を掘りながら、「おすなばセット、もってくる?」と言います。もっといろいろな道具で遊びたくなったのでしょう。でも、もう夕方だし、寒くなって来ていたので、
「今日は帰って、明日来ようね。」
と言うと、子リスは
「ママ行ってきて。」
驚いて「えっ、子リスは?」と聞くと、
「ここでまってる。」
と言うのです。待ってると言っても、ここは家の前というわけではありません。
「それはだめ。あぶないから。」と言っても、
「だいじょうぶ。まってる。」
と聞きません。(もうこの頃から、言い出したら聞かない性格が見え始めていました。)私は、行く振りをしたら追いかけて来るかもしれないと思い、「じゃあね、ママ行くよ。」と言って歩き出してみました。時々後ろを振り返って見ると、子リスはこちらをちらっ、ちらっと見ていますが、追いかけて来る様子はありません。仕方がないので私は、そのまま公園の門の所まで歩いて行って、門の陰から子リスの様子を見ていました。子リスは時々顔を上げて見ては、また下を向いて、一心不乱にシャベルで砂を掘っています。
その様子を見ているうちに、私は急に、切なくてたまらない気持ちになりました。
一瞬でも私の姿が見えなくなると、パニックに陥ってあんなに泣き叫んでいた子リスが、「まってる」と言って一人で遊んでいるのです。私が絶対に戻って来る、と信じている子リスの心が、私の胸に痛いほど響いて来ました。「ママはボクのところに戻ってくるんだ」ということが、私の入院で子リスが得たものだったのかも知れません。

私は門から駆け出して行って、子リスを抱き上げました。
「もうきたの、ママ?」
「ううん、一人で行くのがさびしくなったから、戻って来ちゃった。子リス、一緒におうちに帰ろう。」
と言うと、子リスは不思議ともう駄々をこねず、
「うん。」と頷きました。私は子リスを抱いて歩きながら、しばらく涙が止まりませんでした。
あの時、どうして急にあんなに切ない気持ちになったのか、今でもよくわかりません。ただ、まあるくなって、一生懸命に砂を掘りながら、私が戻るのを待とうとしていた小さな子リスの姿は、きっと一生、私の胸に残っていくだろうと思います。