高校時代 その④ 部活を見に行く [1年生]

話が遡りますが…入学式に続いて間もなく行われたのは、2日間に渡る恐怖の「校歌・応援歌指導」でした。新入生はここで応援部の指導のもと、鍛えられ、震えあがらされ…つまりは洗礼を受ける訳です。
しかし最終日の指導が終わると、その怖かった応援部の人達が、新入生を「よくやった!」とねぎらい、「これでお前達もこの高校の一員だ」と認めてくれます。これによって、必死で校歌・応援歌を覚え、恐怖に耐えた苦労が報われ、そして新入生の心にはK校生としての自覚と自尊心が生まれるのです。同時にそれは、応援部に対する恐怖心が、尊敬や誇りに変わる瞬間でもあるのですが、中にはそのまま魔が差して、後先考えずに応援部に入部してしまう子もいるとかいないとか…

入学式、オリエンテーション、校歌・応援歌指導・部活見学・入部…と怒涛の2か月を過ごし、電車通学やら高校のタイムテーブルにも慣れて来た5月のある日、「応援部保護者見学」というものがあると学校からお知らせが来ました。部活動の様子を保護者が見に行くことができる日のようです。

子リスの中学時代でさえ、保護者が部活に関わる機会は殆ど無かったので、高校の部活となったら親の出番なんてまず無いのであろうと思っていた私は、ちょっとびっくりしました。
でもまあ、せっかくの機会なので、見に行ってみましょうか…と軽い気持ちで出掛けました。

初めに教室で、顧問の先生や上級生のお母さん達からの話を聞いた後、ではいよいよ練習を見に行きましょう、となりました。
応援部の練習場所は…学校の屋上です。階段を上がり、屋上が近づいてくると、上の方から太鼓の音とともに、何だかものすごく野太い声が聞こえて来ました。声だけでなく、何ともいえない張り詰めた空気も漂ってきます。更に階段を上って恐る恐る屋上に出てみると…
そこには体の後ろに腕を組み、眉を吊り上げて口を結び、二列に並んで立っている一年生、その間を練り歩く上級生と、そして一人、見るからに段違いの風格を放っている団長の姿が見えました。応援部総勢30人。

屋上の床は緑色に塗られています。腕立て伏せや腹筋をすると聞いていたので、これで体育着の背中が緑に染まっているんだな、と納得しながら様子を見ていると、やがて太鼓の音とともに、応援歌の練習が始まりました。

腕を肩の高さまで上げて顔の前で手を合わせる、応援団独特の“拍手”をしながら、1年生部員が応援歌を歌って…というよりは、声を限りに“がなって”います。
そこを上級生が練り歩き、一人一人の前に立って指導しています。全員が叫んでいるので、何と言っているのかちゃんと聞き取ることは出来ませんが、とにかく指導する側もされる側も、真剣そのものであることが伝わってきます。

(そういえばあの時、どんなことを指導されていたの?と先日子リスに聞いたところ、あの頃はまだ入ったばかりだから、細かい形よりも、まずは大きい声を出すことと、しっかり厳しい顔を作ること、視線を動かしたりしないこと、などを言われていたのだそうです。)

すごい威圧感。顔と顔がくっつきそうな距離。それでも1年生は、真っすぐ前を見たまま、必死に叫んでいます。

…と、怖そうな先輩が、子リスの前に来て止まりました。

「森村、もっと声出せ!!」

と怒鳴るのが聞こえました。

・・・あの人、子リスに「声出せ」って怒鳴ってる…

子リスに「声を出せ」と怒鳴る—それがどれだけ衝撃的なことかなど、あの先輩は知る由もないわけですが、私にとってはまったく、
「ひ~っ」というカンジです。先輩達の怒鳴り声を聞いているだけで、こっちの足がすくみそう。他人が痛い思いをしている時に、思わずこっちも歯を食いしばってしまうような、そんな気持ちで約1時間、練習風景を見学しました。

いやはや、私が洗礼を受けた気分でした。
応援部。こりゃタイヘンなところに入ったもんだ…

でも子リスは、他の1年生と全く同じ様に、同じ姿勢を保ったまま、目も動かさず、声を限りに叫びながら、必死に練習についていっていました。
自分で決めて入って、なんとかやっているのです。
だからもう、見守るしかありません。

それにしても…
自意識の強さやら繊細さやらが絡み合い、深く根差していたと思われた子リスの弱点が

「ピシッとできない、ちゃんとすることが恥ずかしい」

ということだった筈ですが、こんな荒療治で直すことになるなんて。
運命なんてわからないものです。

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