4年生時代 その㉓ 持久走記録会

「隠れ負けず嫌い」タイプの子リスにとって、運動会の徒競走は挑むものではなく、参加することに意義がある…というよりはもはや、子リスの中では「無いことにする」ぐらいの位置づけだったようです(後日、子リス談)。でも実は、子リスは長距離走の方ははそんなに不得意でもなかったのです。

毎年11月末か12月初めに、持久走記録会が行われます。子リスの小学校の目の前には、市の陸上競技場があって、子供達はそこの全天候型の立派なトラックで、学年に応じた距離を走るのです。

全てにおいて「向かっていく気持ちゼロ」の状態で過ごしていた、1年生の時こそだいぶ遅かったのですが、その後2年生、3年生と順位を伸ばし、学年の男子約80人中で30番台ぐらいには入るようになっていました。

この年「学級委員補助」という係だった私は、旗を持って、トラックの周りで応援するという仕事があったため、いつもより近くで子リス達が走るのを見ることが出来ました。
朝、旗を持って所定の位置に付こうと歩いていると、O先生に会いました。

「まあ、お母さん!来て下さってありがとうございます!ご苦労様です」
「あ、先生!いつもお世話になっています」
「大丈夫ですか?」

…と気にかけてくださったのは、もういつ生まれてもおかしくない程大きくなっていた私のお腹…。実際、この前日の検診では、もう、ちびリス側は生まれる態勢が整いつつあるとのことでした。私は朝、「せめて今日の午前中はまだ待ってね。」とお腹のちびリスに話しかけてから出かけていました。

会場で会った他のお母さん達もみんな、「大丈夫!?」と声をかけてくれます。「うん、もう1センチ開いてるんだけどね」「ホント?じゃあ、何かあったら、みんなで運んであげるから!」「その時はヨロシク」
母同士のつながりは、こんな時本当に心強いものです。

そうこうしているうちに、4年生の出番となりました。旗を持って待っていると…来た来た!真剣な顔で走って来ました。「子リス~!頑張れ~!!」と大きな声は、私…ではなく、隣に立っていた、同じマンションのNさん。声に気付いた子リスはちらっとこちらを向くと、Nさんと私を見つけてほんの一瞬いつもの照れ笑いを浮かべ、またマジメな顔に戻って走って行きました。

今年は、新型インフルエンザの流行で1つのクラスが学級閉鎖になっていたため、いつもより少ない、60人ほどの中で24位。大健闘でした!

応援も係の役目も終わり、ほっとして家に帰って来て、ふうっと一息ついた時、何となくお腹がいつもと違う感じで張っている気がしました。子リスが生まれた時の記憶(10年前)を手繰り寄せ、こんな感じだったっけ…?と考えてみますが、そうだったような、違うような。

確信がないまま、立ったり座ったりしているうちに、子リスが帰って来ました。いつもの、にこにことニヤニヤの混ざった嬉しそうな顔で、[24] と書いてある順位表を見せてくれました。

私:「24位!すごい!!よく頑張ったね。」
子:「今年は1クラス少ないけどね。」
私:「いやいや、何人だって関係ないよ。順位が上がったのは変わりない。」
子:「ウン。」
私:「ところで子リス、ママちょっとお腹が痛いんだよね。」
子:「えっ!生まれる!?」
私:「わかんない。そうかもしれない。」
子:「えーっ!どうする?パパに電話する?」
私:「いや、まだ全然近くはないから、しなくていいよ。それよりちょっと休もうかな。」
子:「そうだそうだ、それがいい。休んで休んで。」

そう言うと子リスは、居間に布団を敷くのを手伝ってくれて、
「さあ休んだ休んだ」と、私を寝かせます。
それから自分も布団に入って来て、私の隣で本を読んだり、そっとお腹を触ってみたりしています。そして、

「ねえ、やっぱりパパに電話した方がいいんじゃない?急に生まれそうになったらどうするの?」
「そんなことはないよ、多分。」
「でも~。」

子リスは、楽しみなのと、もし今赤ちゃんが生まれそうになったら自分だけではどうにもならないと思ったのでしょう、しきりに夫に電話をしろと言います。そして合間に、

「くぅ~っ、楽しみだなあ。」
と、騒いでいます。

しかし、子リスの気持ちを知ってか知らずか、お腹の兆候はなぜか段々遠ざかっていきました。
「子リス、今日は生まれないみたい。」と言うと、
「えーーーーーーっ…」
子リスは心底残念そうにしています。

ちびリスは、なぜかその日は出て来るのを延期したようでした。
この日のお兄ちゃんの期待と落胆の様子は、ちびリスが生まれてきたらきっといつか聞かせてあげよう、と私は思いました。

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