3年生時代 その⑱ 画用紙と発表

 3年生最後の、N先生との面談です。

 実はN先生はおめでたで、もう出産間近という時期でした。もしかしたらそういうこともあってなのか、何となく先生は、以前よりもゆったりと落ち着いた感じに見えました。(私自身も、初めての出産が近づいた時、緊張しつつも、不思議にどこか落ち着いたような、「流れに身を任せるしかない」と覚悟が決まったような気持ちになった記憶があります。「母になるホルモン」とかいうものがあって、落ち着かせてくれるのかもしれません!)

 「先週ですね、」と、N先生は話し始めました。面談はいつも、前回の面談以降の子リスの様子を聞かせていただくことから始まります。

 「総合の単元で『世界の国からホップ・ステップ・ジャンプ』というのがありまして、これは子供達がそれぞれ好きな国を選んで、調べ学習をするというものなんです。それから調べた内容を4ッ切り画用紙にまとめて、一人ずつ前に出て発表する、ということをやったんです。」

 私は子リスから、外国について調べる学習があるので、タイ(Thailand)を選んで本を読んだ、ということは聞いていましたが、その内容をみんなの前で発表することになっていたという部分は初耳でした。

先生:「それでですね…」

 私:「はい…」(ドキドキ)

先生:「子リス君に、『どうしたい?』って聞いたんです。そうしたら子リスくん、立ち上がって、調べたことをまとめた画用紙を持って、1つ1つの班の所へ行って、みんなにその紙が見えるようにして、書いたものを指さして…という形で発表をしたんです。」

 私:「子リスが教室の中を歩いて、その紙を見せて回ったんですか?」

先生:「そうなんです。それぞれの班で、みんなによく見えるように紙を持って、書いてある文や絵をこうやって指さしながら…」

その様子が一気に頭の中に浮かび、急に涙が溢れてきました。
(今でも、そのことを思うとじーんとしてしまいます。もう10年も前のことなのに。)

 

先生:「私が“そうしたら?”って提案した訳じゃないんです。子リス君、一人で考えて決めたんですよ。」

 この日の面談では、「子リスは、喋れないことをもう困っていないと思うんです。これではいけないと思うんです。先生から見て、どう思われますか?」
…という相談をする筈でした。でも、先生が教えて下さった「画用紙の話」は、そんな心配(?懐疑心?)で頭を一杯にしていた私に、全く予期しない方向から光を当てて振り向かせてくれるようなものでした。「学校での子リス」について、面談をしているからわかっている、と思っていたけれど、実は見えていなかった大事な部分があったことを知らされた気持ちでした。

 子リスはまだ、教室で声を出すことはできていない。やってみようという気にもなっていない。でもその状態の中で、出来ることは精一杯やろうとしていたのです。 一生懸命考えて、今できることを出来る形で、やっていたのです。
 子リス自身に、そんな力があったなんて、思いもよらないことでした。いわば受け身一辺倒で過ごしているとさえ思っていた我が子は、実は自分で、小さなステップを登ろうとするほどになっていたのだと、気付かされました。

 今の条件の中で精いっぱいやること、それができてこそ、次が見えてくるはずでした。そんな大事なことを、私は忘れていたようです。高学年になる4年生を目の前にして、ちょっと焦っていたのかもしれません。
 ここまで見守ってきたのに、ここで、「今の君ではだめだよ」というメッセージを伝えることは、これまでのスモールステップの積み重ねを一気に崩してしまうことになりかねません。
 次を目指してほしい。だからこそ、見守る姿勢を諦めてはいけない。

 腕をぐいぐいひっぱるのではない。いつも通学路の危ない所に立って見守って下さる交通指導員さんのようでありたいと思いました。

 「画用紙の発表」。私の知らない子リスの成長を聞いて、
よし、行けるかもしれない。
そう思った日でした。

 4月からは、ついに「節目」の4年生になります。

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