子リスの小指部分には金具が入り、左手全体が包帯でぐるぐる巻きになった状態でしたが、幸い左手だったことで、日常の飲食や読み書きに関してはあまり不自由していませんでした。
しかし問題は、1週間後にひかえた「卒業発表会」です。
予定のプログラムは、「合奏」・「劇」・そして運動会の組体操でも披露した「ジャンボピラミッド」でしたが…劇はよいとしても、この手では、担当だったリコーダーは演奏できないし、ジャンボピラミッドに参加するなんて絶対無理。
先生が、鍵盤ハーモニカなら、楽器を机に置いて右手で演奏できるからそちらに変えましょう、と言って下さっているというので、そのようにしてもらい、ピラミッドは不参加。残念だけれど、今回はタイミングが悪すぎました。まあ、こういうこともあります。
…と言って諦めるという選択肢しかないはずだったのです。が、なんと子リスは学校から帰って来て、
「リコーダーのままにしてもらった。」
と言うのです。どうして!?
「気が付いたんだけど、リコーダーを吹くのに、左手の小指は使わないんだよね。」
ん?と私はリコーダーの指使いを自分でやってみて納得。そっか、ホントだ。でも包帯があるし、多少は力はかかるから痛いんじゃない?
「いや、だいじょうぶ。」
子リスは先生に、
「他の指は動かせるので、リコーダーが吹けます」と、リコーダー担当のままにしてもらったのだそうです。更に驚いたことには、
「痛みはないから、ピラミッドも参加できます」と先生にお願いして、OKをもらって来たというのです。
え~っ…骨折してるのに組体操って、聞いたことないけどなあ。やめた方がいいんじゃないの?だってもし落ちでもしたら、大変なことになるよ。先生達にも、同級生にも迷惑かけるんだよ。
「でもMM先生がいいって言ったよ。」
という私とのやり取りはあったものの、結局子リスは、ピラミッドにも参加することになりました。
…MM先生はよく許可して下さったと思います。万が一何かあったら、責任問題になったりして大変だからやめさせておこう、と考えるのが一般的だと思うし、それは全く当然のことだと思うのですが、一体子リスはどうやって交渉したのやら、とにかく先生の“GOサイン”をもらって来たのでした。
そして迎えた当日。
合奏の曲はラヴェルの「ボレロ」でした。メロディーそのものも複雑で、ハーモニーを作るのも難しそうで、小学生にとっては随分高度な曲だと思うのですが、さすが六年生。ただ単に、楽器を間違わずに最後まで演奏できたということではなく、しっかりとメリハリがきいて、最後はぐーっと引き込まれるように盛り上がり、胸がいっぱいになる素晴らしい演奏でした。
劇は、足に障害を持つ男の子が、運動会でうまく走れないことでクラスの雰囲気が一時険悪になるけれど、その子の素晴らしい所にみんなが気付き、段々とクラスが一つになっていく…という物語でした。最後にみんなで歌をうたうことになるのですが、その直前の“キュー”が子リスの出番!
「そうだよ。今からみんなを呼んで、そしてみんなで歌おうよ。おーい、みんな集まってくれ!」
というセリフを、(ちょっと照れながらも)しっかり言いました。
そして最後を飾るジャンボピラミッド。
運動会の時と同じ音楽(平井堅「いとしき日々よ」)に乗せて、一段、また一段と積み重なっていきます。約80人ずつで作る、2つの角錐型のピラミッドは、やっぱり見事なものでした。
子リスは、小指側に負担がかからないよう、親指側に力を入れているのがわかります。そして、子リスの上に載った子は、子リスにあまり体重をかけないようにと、反対側の手の方に体を傾けてくれていました。(彼は同じ幼稚園出身のK君。ちなみにK君とは、その後中学・高校まで一緒だったので、幼稚園から高校まで、どの卒業アルバムを開いても彼の顔が見えます😊)
よくもまあ、全部やってくれたなあ。というのが、この日の発表会を見終わった時の私の気持ちです。なんだかんだで、結局全部、やったんだ…。しかも自分で先生と話をつけてまで。
あの時、どうしてあんなに頑張って、全部やろうとしたんだろう?と、今の子リスに聞いてみました。すると、
「6年生はいいことなかったからね。その上怪我で最後の行事に参加できませんでした、っていうのがどうしてもイヤだったんだよね。リコーダーも、せっかくじゃんけんで勝ってなった担当だったし。無意識にだろうけど、最後に『余計なマイナス要素』を付けたくなかったんじゃないかな」
という答えでした。
なるほど。自分の小学校生活のしめくくりを、何とかしていいものにしたかったのかもしれません。
危険だったかもしれないことに、参加したことが「正解」…かどうかはわかりません。
子リスには子リスなりの、どうしてもやりたかった理由もあったようです。
でも私にとっては、あんなに「何ひとつやろうとしなかった」子の、「全部やろうと自分で頑張り、そして全部やった」姿にほかならず、まさにスモールステップの集大成としての卒業発表会でした。これが6年間の小学校生活の成果です、と見せてもらった気がしました。
あと一か月足らずで、卒業です。