3年生時代 その⑬ おじいちゃん(1)

  ところで子リスの運動会の数日前、天気予報は「週末は台風が直撃しそうだ」と伝えていました。 もし運動会が中止になったら、それは翌週の火曜日に延期されることになっていました。全く出来ないよりは勿論いいけれど、平日では見に行けない保護者も多いし、プログラムも幾分削られることになって、やっぱりちょっと残念な気持ちがしてしまいます。やっぱり予定通り出来るに越したことはありません。
 子リスは、黙ってティッシュを丸めて「てるてる坊主」を作っています。 「おじいちゃんにお願いしてみたら?」と聞くと、「ウン、ママ言ってきて。」と言うので、子リスの伝言を持って父に会いに出かけました。

 前年の9月から体調を崩して、入退院を繰り返していたママじいちゃん(私の父)でしたが、実は子リスの運動会の前の週に心筋梗塞を起こして救急で病院に運ばれ、ICUで治療を受けていました。 「心臓が半分しか機能していません」と言われたものの、父の意識はしっかりしていて、ちょっと会話をすることも出来ていましたが、それでもやはり段々、血中酸素などの数値は悪くなって行きました。呼吸も辛そうになっていたので、ICUに入って1週間ほど経った頃、一度人工呼吸器を付けて状態を安定させようということになりました。 人工呼吸器をつけるということは、しばらくの間意識がない状態になるということです。

  子リスの伝言を伝えに行ったのは、呼吸器をつける前日のことでした。
私: 「今週末、子リスの運動会なんだけど、台風が来てるんですよね。」
父: 「そうかあ、困ったなあ。」

 父はこういう時、本当に困った声で「こまったなあ」 と言う人でした。
私が小さい頃、ひどい風邪を引いて高熱を出すと、汗をかきながらウンウン唸って寝ている私の枕元に座り、 私が「パパ、ぐわわるい(具合悪い)」と訴えると、 「具合悪いかあ。こまったなあ。」と、ただそこにいて私の具合の悪さに付き添っていてくれたものでした。
 自分が生きるか死ぬかの状態になっても、父の言うことはやっぱり、 「こまったなあ。」 なのでした。

私: 「子リスが、おじいちゃんにお願いして来て、って。」
父: 「そうかあ。」

 何をお願いするのかというと… 実は父は、正真正銘の「晴れ男」なのです。父にとって大事な日には必ず天気がよく、直前まで降っていた雨が上がることも度々でした。
  一度、父と母、それに私達3人で一泊旅行に行った時は、「ずっと雨」の予報にも関わらず旅行中「ずっと晴れ」。そして、旅行を終えて帰ってきて、父が家に入ったとたんにざーっと雨が降ってきたことがあり、さすがにその時は父を除く全員で「ウソォ!」と叫びました。「おじいちゃん、すごいねぇ…」と言うと、父は「ははぁ」とゆるーく笑っていました。
 そんな数々の“実績”があるおじいちゃんは、天気に関して子リスの絶大な信頼を得ていて、大事な行事や楽しみにしているイベントがある時には、子リスは必ずおじいちゃんに「お天気にしてください」とお願いするようになっていました。そして、100%とは言いませんがかなりの確率で、子リスのお願いは叶ってきていました。

 そんな訳でおじいちゃんにお願いした運動会の天気でしたが、週末直撃する予定だった台風は、なんと突然太平洋側に大きく逸れて、当日の朝はぴかぴかの晴れ間が広がっていました。
 やっぱり、おじいちゃんの「晴れ男力」はホンモノでした。

 そして父も、数日間の人工呼吸での処置のかいあって状態が安定し、呼吸器を外して意識も戻り、一般病棟に移ることができました。

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